2010/06/13

再び、コンバース訴訟について

以前の投稿で紹介したコンバース事件の控訴審判決ですが、ようやく判決文が裁判所のHPに掲載されました(→こちらから全文をPDFファイルで入手可)。まだ、ざっとしか読んでいませんが目についたのは次の箇所。少し長くなりますが、引用します。
ア 内外権利者の実質的同一性の要否について
(ア) 外国において,我が国の登録商標と同一又は類似する商標を付した商品が拡布された場合に,これを輸入する行為は,形式的には,我が国における商標権を侵害することになるが,外国において商品に商標を付した者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があるときは,実質的な違法性を欠くものとして,我が国の商標権者の有する商標権を侵害しないものといえる。
(イ) この点について,被告は,「出所表示機能が害されるかどうかの観点からすれば,登録商標権者が外国拡布者から商標権を取得する以前より,それと同一又は類似の外国拡布者の商標が世界的に著名であり,登録商標権者が使用する商標により需要者が識別している出所が登録商標権者でなく外国拡布者である場合,登録商標が示す出所は,我が国における登録商標権者ではなく,むしろ外国拡布者であると解すべきであるから,『法律的又は経済的に同一人と同視し得るような関係』があることを要件とすることなく,我が国の商標権者の有する商標権を侵害しないと解すべきである」と主張する。
 しかし,被告の上記主張は,以下のとおり採用できない。すなわち,商標権の効力により,商標の独占的な使用が認められるのは,我が国における登録商標権者に対してであり,商標法により保護される出所は,我が国における登録商標権者である。仮に,本件のように商標権が譲渡されたような場合に,需要者が,商標を付した商品の出所について,譲受人であるとの認識を有していないような状況があったとしても,それは事実上のものにすぎず,そのような状況から,譲渡人による商標の使用が当然に容認されるものではない。したがって,譲渡人と譲受人との間の「法律的又は経済的に同一人と同視し得るような関係」があることを要件とすることなく,当該商標について譲渡人の出所が保護の対象とされるべきであるとする被告の主張は,その主張自体失当である。同主張を前提とする被告のその他の主張も,それ自体失当である。
(裁判所HP掲載のPDFファイルにおける43頁~44頁)

本件は米国コンバース社製であるというコンバース・シューズを日本に輸入した業者(被告)が、日本におけるコンバース商標の商標権者(伊藤忠)から商標権侵害で訴えられた事案です。被告は、適法な並行輸入であるから商標権を侵害しないと主張しました。判例上、適法な並行輸入と認められるためには、上記引用判決文の(ア)部分に書いてあるように、外国において商品に商標を付した者(=本件では米国コンバース社)と我が国の商標権者(=本件では伊藤忠)とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係(内外権利者の実質的同一性)があることが必要とされています。しかし、被告は本件のような場合は、そもそも内外権利者の実質的同一性は必要ないと主張しました。

すなわち、もともとコンバース商標の商標権は日本においても米国においても米国コンバース社が保有していました。それが米国コンバース社の倒産等を経て、日本のコンバース商標は伊藤忠が保有し、米国のコンバース商標は米国コンバース社(厳密には倒産後の新米国コンバース社であり、倒産前の旧米国コンバース社とは別会社)が保有するに至りました。このような経緯があるため、被告は、コンバース商標はもともと米国コンバース社の商標として著名であり、需用者も製品の出所を米国コンバース社と認識するのだから、内外権利者の実質的同一性を欠いていても(商標の出所表示機能を害しないため)商標権を侵害するとはいえないと主張したのです(上記引用判決文の(イ)部分前段参照)。

しかし、上記判決文記載のとおり、裁判所はこの理論を採用しませんでした。内外権利者の実質的同一性の要件は本件においても必要であるとした上、本件では内外権利者の実質的同一性は満たされていないと認定し、被告による並行輸入の抗弁を排斥したのです。そして、一審同様、被告(控訴人)敗訴ということになりました。

私は内外権利者の実質的同一性を必要とした裁判所の考えに賛成ですが、感覚的には被告(控訴人)が主張したような考えも分からなくはありません。昔、少しだけ勉強したEU法の教科書によれば、欧州司法裁判所(EUの裁判所)では「同一の起源を有する商標を付された製品が輸入される場合には、現時点で輸出国の商標権者と輸入国の商標権者が無関係であっても、輸入国の商標権者は、商標権を行使できない」という商標権の『共通起源』の理論が採用されていたことがあるそうです(参考:Hag I事件判決)。仮にこの理論を本件にあてはめれば、日米両国のコンバース商標は旧米国コンバース社という「共通起源」を有しているので、伊藤忠は第三者が米国コンバース社の製品を輸入することを阻止できないということになりそうですよね。もっとも、EUでも既にこの理論は放棄されていますし(参考:Hag Ⅱ事件判決)、全く法制度の違うEUの理屈を日本の事件に当てはめること自体そもそも無理な話ではありますが。

なお、上記でEU法に興味の湧いた方(あまりいないかもしれませんが)には、以下の本をお薦めしておきます。上述の「『共通起源』の理論」の説明も同書の該当箇所を参考にしました。非常に分かりやすい良書だと思います。

須網隆夫「ヨーロッパ経済法」新世社


(2011年8月1日追記)
この投稿へのアクセスが多いようですので新たにコンバース商標と並行輸入の問題について書きました。こちらもご覧ください。

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